「強度行動障害」という言葉を耳にする機会が増えてきました
発達障害や知的発達症のある人の中には、日常生活で大きな困難を抱える行動が強く現れる場合があり、それを指して「強度行動障害」と呼びます
ただし、この言葉は診断名ではなく「支援の必要度」を示すものです
ここでは強度行動障害の特徴や背景、そして支援の基本的な考え方をわかりやすく解説します
強度行動障害とは?
強度行動障害とは、自傷行為・他害行為・常同行動・パニック・破壊行為 などが強く見られ、本人や周囲の生活に大きな影響を与える状態を指します
たとえば
- 頭を叩き続ける、自分を噛む(自傷)
- 他人に噛みつく、叩く(他害)
- 同じ動作を延々と繰り返す(常同行動)
- 強いこだわりが崩れると大きなパニックになる
などが挙げられます
このような行動が頻繁に起きると、本人の健康や安全が脅かされるだけでなく、家族や支援者の生活にも大きな負担がかかります
強度行動障害は診断名ではない
大切な点は、「強度行動障害」というのは 病名や診断名ではなく支援区分 だということです
発達障害(ASDやADHD)、知的発達症などが背景にあることが多く、その人の特性と環境との関わりの中で行動が強く出ている状態を表す言葉です
そのため、単に「この子は強度行動障害だから」とラベルを貼るのではなく、なぜその行動が起きているのかを理解する視点 が欠かせません
行動の背景を考えることが大切
強い行動には必ず背景があります
代表的な背景は次の通りです
- 感覚過敏や感覚鈍麻
音や光に強く反応してパニックになる/痛みに気づかず自傷を繰り返す - コミュニケーションの難しさ
言葉で要求を伝えられない → 行動で表すしかない - こだわりの強さや変化への弱さ
予定が崩れると不安が大きくなり、かんしゃくに発展する - 過去の経験や学習
大きな行動を起こすと周囲が要求を受け入れてくれる経験を繰り返した結果、強化される
つまり「行動そのもの」よりも「行動が起きる理由」を理解することが支援の出発点です
支援の基本的な考え方
① 安全の確保
自傷や他害がある場合、まずは本人と周囲の安全を守ることが最優先です
環境を整理したり、危険物を避けたりする工夫が必要です
② 行動の背景をアセスメント
- いつ、どんな場面で行動が出やすいか
- 行動の直前(きっかけ)や直後(結果)はどうなっているか
こうした情報を整理すると「行動の理由(機能)」が見えてきます
③ 代わりの方法を教える
- 要求を伝える → 絵カードやジェスチャーで表現できるようにする
- 感覚過敏に対応する → イヤーマフ、静かな空間を用意する
- 見通しを持てるようにする → スケジュール提示、予告
「困った行動をやめさせる」だけでなく、安心できる代替手段を増やす ことが大切です
④ 小さな成功体験を積む
強い行動を減らすためには「落ち着いて過ごせた」「うまく伝えられた」といった経験を積み重ねることが効果的です
周囲が「できたね!」と肯定的に伝えることが本人の安心につながります
家族と支援者の負担の理解も欠かせない
強度行動障害があると、家族は外出が難しくなったり、24時間気を抜けなかったりと大きな負担を抱えます
そのため本人への直接支援だけでなく、家族へのサポート(レスパイト、相談支援、地域資源の活用) も重要です
また、支援者側も「常に緊張して関わらざるを得ない」状況に置かれるため、チームで共有しながら対応する体制が必要です
まとめ
- 強度行動障害は「診断名」ではなく「支援の必要度」を示す言葉
- 自傷・他害・常同行動・パニックなどが強く出る状態を指す
- 背景には感覚特性、コミュニケーションの難しさ、こだわり、不安などが関わっている
- 支援の基本は「安全の確保」「行動の背景を理解」「代わりの手段を増やす」こと
- 家族や支援者へのサポートも欠かせない
強い行動の裏には、本人の「どうしても伝えたいこと」や「安心したい気持ち」が隠れています
その声にならない思いに寄り添い、少しずつ安心して生活できる環境を整えていくことが、支援の出発点になります


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